はじめに
70才をすぎると、耳鳴りに悩んでいる人は3人に1人あるといわれています。また、感音性難聴の場合、ほぼ100%耳鳴りの合併があります。欧米の治療法を探してみると、今のところは、耳鳴りに慣れなさいといっています。つまり、耳鳴りに慣れるまでの導入として、耳鳴り治療が必要だと考えます。
未来の治療
日常一般的に起こっている騒音で、私たちの有毛細胞は障害を受けていますが、一晩寝るとまた回復しています。このように有毛細胞は回復力があります。一時的な難聴が、回復する機構がわかれば、感音性難聴も治療できるようになるでしょう。Kachar博士らはアクチンモノマーを新たに不動毛の先端に付け加えることにより、再生することを確認しています。もう少しで、有毛細胞の再生も可能になるでしょう。ミオシンがその再生の触媒になっています。
耳鳴り治療の実際
1) バイオフィードバックはできない方が多く、できるまでに時間と根気が必要です。それでも、脳幹からの聴覚遠心性繊維が蝸牛にのびているので、これは聴覚の回復や耳鳴りの抑制に効果があると思われます。耳鳴りは聴覚障害の結果で神経の障害電位だと言われていますが、別の考えとしては、聴力を少しでも良くするために傷害された音を補って外有毛細胞が振動する音かもしれません。それではこれを利用して聴力を回復する方法があるのでしょうか?これがうまくいけば難聴と耳鳴りの両方とも良くなることが考えられます。人間の神経細胞の構築(シナプス連絡網)に可塑性があるなら、練習によって耳鳴りの抑制や聴力を回復することができるかもしれません。
2)催眠療法 バイオフィードバックに似ていますが、基本は「耳鳴りは自分の仕事や生活に全く障害をもたらさない」と自己催眠をかけることです。
3)キシロカインによる薬物療法。投与経路には経皮、経口、経耳、静注があります。効きはこの順に強くなりますが、持続時間や副作用のこともあり、一概にどれがよいとは言えません。
4)神経ブロック 肩こりを耳鳴りでは副神経や後頭神経や耳介側頭神経にブロックを行うと効果があります。
どの治療法にもいえることですが,治療をやめるとまた耳鳴りがしてくるのは一番困るところです.今後はこれについても研究していくつもりです.効果の持続時間については内服による治療がいいようです.治療法の選択についてはご本人の希望や体質など考慮した上で決めさせていただいています.
耳鳴りは個々で効果のある治療が異なるため,あきらめずに治療を続けるのがいいかと思います.全く耳鳴りが消失する人もいますが,少しだけ残る場合もあります.それでも,長年苦しんできた耳鳴りが,少しでも小さくなれば,気分的にも明るくなり,人生が楽しくなると思います.少しずつですが医学は進んでいます,遺伝子工学では急速な進歩もありますが,その他の分野でもいい治療法が見つかっています.これからもできるだけいい治療を海外を含めて探していきます.
マスカー療法
スターキーというアメリカの補聴器の会社が耳鳴りを抑えるマスカーを今年中には日本で販売する予定です。耳鳴りとよく似た音を発生させて、聞かせるようです。日本でも箱形のマスカーならリオンから販売されています。効果は聴力が良くて大きい耳鳴りの人には効果があると思いますが、難聴の人には無効です。私も自分で開発中ですが、耳鳴り発生回路でつまずいています。機能的にそれだけならメーカー品に負けてしまうので、新しい機能を持たせてあります。(2002年10月、完成) 10例に貸し出し、有効例2例 やや有効3例 無効5例でした。
TRT療法
シーメンス ヒアリング インスツルメント社から発売されているTCIという耳掛け補聴器に似た器械から、心地よいノイズ(ホワイトノイズ)を出して耳鳴りを少しだけマスキングする治療法です。大脳の機能を生かした心理療法を組み合わせて行います。比較的新しい治療法で日本では平成15年2月からですので、まだ効果については未知です。外国の報告では80%に効果があったと言われています。
漢方薬New
【釣藤散*47】慢性に続く頭痛で中年以降、または高血圧症の傾向のあるもの
【用法及び用量】
通常、成人1日7.5gを2〜3回に分割し、食前又は食間に経口投与
する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。
【柴胡加竜骨牡蛎湯*12】 さいこかりゅうこつぼれいとう 実証 強いストレス・不安・動悸・不眠・のぼせ・めまい・便秘のある人。神経の興奮を鎮める。
通常、成人1日7.5gを2〜3回に分割し、食前又は食間に経口投与
する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。
【大柴胡湯*8】比較的体力のある人(主に男性)で、便秘がちで、上腹部が張って苦しく、耳鳴り、肩こりなど伴うものの次の諸症:
胆石症、胆のう炎、黄疸、肝機能障害、高血圧症、脳 血、じんましん、胃酸過多症、急性胃腸カタル、悪心、嘔吐、食欲不振、痔疾、糖尿病、ノイローゼ、不眠症
【用法及び用量】
通常、成人1日7.5gを2〜3回に分割し、食前又は食間に経口投与
する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。
【牛車腎気丸*107】疲れやすくて、四肢が冷えやすく尿量減少または多尿で時に口渇がある次の諸症:下肢痛、腰痛、しびれ、老人のかすみ目、かゆみ、排尿困難、頻尿症、むくみ
【用法及び用量】
通常、成人1日7.5gを2〜3回に分割し、食前又は食間に経口投与
する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。
【加味逍遥散*24】
体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある次の諸症:
冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症
【用法及び用量】
通常、成人1日7.5gを2〜3回に分割し、食前又は食間に経口投与
する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。
【苓姜朮甘湯*118】 りょうきょうじゅつかんとう 虚証 低血圧・むくみ・排尿異常・倦怠感・腰の冷えのある人。水分のバランスを良くする。
通常、成人1日7.5gを2〜3回に分割し、食前又は食間に経口投与
する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。
西洋薬New
【ミオカーム】 騒音性難聴には効果無し
【ATP メコバラミン】 高音の耳鳴り
【イソソルビド】 低音の耳鳴り
【ダイアモックス】 低音の耳鳴り
補聴器New
中等度の難聴を伴う耳鳴り
聴力維持は耳鳴りを軽減します
聴力の回復はあきらめていませんか?現在の医学では外耳、中耳、内耳と脳に近づくほど治りにくいといわれています。もちろん耳垢や中耳炎による聞こえの悪さは、治る可能性が高いでしょうが、突発性難聴の後遺症や騒音性難聴や老人性難聴など、治らないといわれている難聴に対しても、薬で治る可能性があります。難聴の大部分は、外有毛細胞の障害といわれています。この外有毛細胞は入ってくる音を、調節するボリュームのようなもので、小さな音はそれに同期して、外有毛細胞を振動させています。大きな音は外有毛細胞の振動を止めて、音を伝わりにくくしています。また、大脳からの抑制も伝えるため、自分の聞きたくない音をフィルターする働きもあります。治療でもっとも望ましいのは、外有毛細胞の再生ですが、これに関しては遺伝子工学が答えを探してくれるでしょう。しかし、現在の薬でも、内耳でのリンパ液の振動を、機械的に伝わりやすくすることはできます。それ以外の内耳性難聴の原因である1)らせん神経2)血管条3)有毛細胞(内と外がある)については治療法がまだ見つかっていません.
とかく現代は視覚に頼ることが多すぎるので、みなさん一度目を閉じていろんな音(たとえばテレビ)を聞いてみましょう。いかに自分の情報が目に頼っていたかわかります。最近のテレビ放送では言っていることをテロップで流していますが、視覚野ばかり刺激して聴覚中枢(人の言葉を聞くための脳の部分)の退化につながります。もっと耳を使いましょう。(具体的には音楽を聞いたり,ラジオ番組を聞くことです)
最近の年齢別の聴力の変化をとってみるとわかると思うけど、(アメリカの年齢別,性別の聴力は男性・女性)昔の時代に比べて早く聴力が老化している気がします。一般に聴力の低下は20歳以降始まっていますが、悪くなったと自覚するのは40歳ぐらいからです。これは環境ホルモンが関係しているのかもしれないし、子供の頃からカラオケボックスなどで、大音響を聞いていると、これだけで騒音性難聴になります。耳に関しては、みんなあまり心配していないのも原因でしょう。耳鼻科医のひがみかもしれないけど・・・..ところで,男と女を比べてみると,30才を越えると低い音は男性の方がよく聞こえます(約0.7dB).それに比べて1000Hz以上の音は女性の方がよく聞こえます.つまり言葉の聞き取りは女性の方がいいわけです.老人性難聴の進行は男性の場合60才が一番大きく,女性の場合は80才が最も進行します.つまり難聴を自覚する時期は男性の方が20年くらい早いわけです.それから,年齢とは関係ないけど,やはり聞き耳があるようで,右耳の方が平均0.4dB左より聞こえがいいです.
耳に優しい環境
日常生活では昔より便利になったぶん雑音が増えています。室内の反射音、外の自動車の音、ファンヒーターの音、テレビの音、食器洗い機の音など...このための対策としては窓には厚手のカーテンを壁にはタペストリーを掛ける、ファンヒーターを昔ながらの音のしないストーブにするなどです。お年寄りのいる家庭では静かにしないと叱られたのはたぶん、やかましいと聞き取りが悪くなり、加えて補充現象で大きな音が耳に響くからでしょう。