「お吉清三のその物語」

国は京都の三条が町の  糸や与ェ門豊かなくらし  店もにぎやかくらしもはんじょう
一人娘にお吉というて  今年や十八か今咲く花じゃ  きりょうの良いこた玉子に目鼻
きりょう良ければあまたの人が  とても良い娘と評判なさる  店の番頭に清三というて
年も二十二で男の盛り  きりょう良ければお吉が見染め  お吉見染めりゃ清三もほれた

通い通いが度重なれば  親の耳にもそろそろ入いる  それを聞いては尽(まま)にはならぬ
奥の一間へお吉を呼んで  店の番頭と訳あるそなは  思い切る気が切らんかお吉
何を云やんすこれ母さんよ  おれと清三というその仲は  紙と墨とがにじみたごとく
何がなんでも離れは出来ん  言ってお吉は一間へもどる さてもその日はすんで又来る日には

奥の一間へ清三を呼ぶと  清三清三と二声三声  清三いつもの御用かと思て
手には帳面ソロバン下げて  金の矢立ては横ちょと差いて  合いの唐紙さらりと開けて
御用いかがと両手をつけば  そちを呼ぶのは別議にあらず  うちの娘の良い気を晴らし
それを聞いては尽にはならぬ  しもて行かんせ今日(こんにち)かぎり せたい清三は大阪生れ

物も云わずにただはいはいと  あたり近所やほうばいどしに  長の御世話の御礼を述べて
清三帰りて四、五日たって  お吉思ったか病気となりて  是非もかなわぬ相果てまする
お吉とろとろねむりし所へ  夢かうつつか清三が姿  まくら元へと現れまする
そこへお吉がふと目を覚し  見れば清三の姿は見えぬ  さても不思議や片そで残す

さてもこれから清三が方へ  親の手元をしのんで行こと  在へ入れば渡し場ござる
舟にゃ乗らずに陸路を行けば  行けば程ない大阪町じゃ  清三やかたはどこじゃと聞けば
橋のつめから三軒目でござる  清三やかたの前にとなれば  傘を手に持ちつえ持ちかえて
ごめんなさえと腰をばかがめ  物もあわれや清三が母は  涙ながらに手にじゅずかけて

若い女中さんはどこからござる  私しゃ京都の糸屋の娘  清三さんとは訳ある由に
遠い所を尋ねて来たと  御前尋ねる清三は果てて  今日は清三が七日でござる
言えばお吉はただ泣くばかり  さてもこれから墓所へ参る  人の一心恐ろしい物じゃ
清三墓所は二つに割れて  そこへ清三が現れまする  そこへ来たのはお吉じゃないか

どうせ此の世でそわれはせぬと  死んで未来でそいとげましょと  言うて清三の姿は消える
待って下されおれも後をしとおて行かねばならぬ  寺の大門四五十離れ
小石ひろうてたもとに入れて  寺のお堀へ身をなげ捨てる  やんれい

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